日本写真芸術学会 ニュースNO.80(2021.9.01)を発行しました

News and Report N0.80には、2021年度年次大会報告(創立30周年記念講演・研究発表会・学会賞)、写真史研究会開催報告、関西支部第4回シンポジウム開催報告等を掲載しています。
詳細内容はPDFも御覧いただけます。[PDFファイル]

1.年次大会報告

総会報告

 新型コロナウイルス感染症対策のため文書総会(5 月 21日送付)として行われた令和3年度第30回通常総会はハガキによる投票 ( 会員総数388名のうち179通 ) の結果、以下の全てにおいて承認されました。
 日本写真芸術学会 第30回通常総会(議案送付による文書総会書面表決)

◎ 報告事項
1.理事・監事・評議員改選選挙結果報告

◎ 議事
第1号議案 会務会勢報告
第2号議案 令和2年度事業報告
第3号議案 令和2年度会計・会計監査報告
第4号議案 令和3年度事業計画
第5号議案 令和3年度予算案

創立30周年記念特別講演・研究発表会報告

  6月12 日(土)13:00 ~17:45 に「創立 30 周年記念特別講演・研究発表会」をオンラインで実施しました。
 総合司会を西垣仁美副会長が務め、冒頭に高橋則英会長より開会の挨拶がありました。日本写真芸術学会が創立 30 周年を迎えたこと、昨年度は要旨集送付のみの研究発表会でしたが今年度は無事にオンライン研究会という運びになったこと、このコロナ禍にあっても新しい試みにより会を運営していくということを述べました。
 次に、吉田成副会長を座長として、小林紀晴先生の基調講演へと移りました。その後、高橋会長を座長にして論文口述が 2 件、上田耕一郎理事を座長として調査口述1件、論文口述1 件の発表がありました。続いて吉田成副会長を座長として招待講演が行われました。最後に、吉田副会長による閉会の挨拶がありました。
 発表の題目・発表者(所属)及び概要は下記の通りです。

基調講演 : 小林紀晴(東京工芸大学)
「コロナ禍に東京を撮る」

 過去から最新作品まで、どのような事に影響を受けてその作品が成立してきたか、また制作の上で大事にしている信念、その信念への答えが導き出されたかによって作品の完成、発表に至るという作家ならではの解説をされました。さらに現在進行中の未発表作品をも豊富に見せていただき、その展示計画や今後の制作計画までを伺いました。

研究発表①(調査口述): 中野可南子(川崎市市民ミュージアム)
「令和元年東日本台風による収蔵庫被災 川崎市市民ミュージアム写真レスキューの体制構築と今後の課題」

 2019 年 10 月の令和元年東日本台風による収蔵庫への浸水により深刻な被害を受けた川崎市市民ミュージアムの写真コレクションについて、収集開始以来のコレクションの成り立ち、被災状況とレスキュー体制の構築、修復の進捗と今後の課題等について詳細な報告がなされました。

研究発表②(論文口述): 谷昭佳(東京大学史料編纂所)
「歴史資料・写真フィルム原板の史料学-松重美人の被爆写真ネガフィルム-」

 1945 年 8 月 6 日の原爆投下直後の広島市内の被爆状況を記録した松重美人撮影の写真ネガフィルムについて、複数ネガの比較や修整痕の検証、掲載発表の変遷や科学的検査等を通じて、歴史資料としての写真フィルム原板の位置が史料学的なアプローチにより論考されました。

研究発表③(調査口述)
山村健(東京工芸大学工学部)、吉田成(東京工芸大学芸術学部)、市原出(東京工芸大学工学部)
「写真家村井修の丹下健三建築写真における特異点に関する考察 - 建築写真研究(1) -」

 写真家村井修の建築家丹下健三の建築作品を対象として、丹下と村井の人間関係の精査、建築写真家/写真家としての二面性の考察、国内総合競技場の写真の分析によって得られた、村井の丹下建築の写真における特異性について発表がなされました。

研究発表④(論文口述): 長妻由里子(和洋女子大学国際学部)
「細江英公研究:『薔薇刑』第 4 章「さまざまな瀆聖」における三島の葛藤」

 写真家細江英公の『薔薇刑』第4章「さまざまな瀆聖」の写真作品において、三島由紀夫の身体と西洋絵画とを重ねることにより、何が表象されているかについて発表がなされました。

招待講演 : 福川芳郎(ブリッツ・インターナショナル)
「ファイン・アート写真の見方 令和日本 / 写真市場の現在」

 玄光社から 2021 年4月に上梓された『ファインアート写真の見方 – 写真を読み解く技術を養う』をベースに、日本と海外の写真のマーケットの相違点や日本における写真のマーケットの現在と今後の課題等について解説されました。

(文:西垣仁美・吉田成・上田耕一郎)

日本写真芸術学会 研究発表会
創立30周年記念特別講演・研究発表会

学会賞

 今年度の学会賞は、師岡清高氏が芸術賞を受賞されました。受賞対象となったのは、個展「刻の表出」(キヤノンギャラリー S、2020 年 2 月13 日~3月 28 日)および丹平写真倶楽部の文化を継承した長年の制作活動に対してでした。賞状とトロフィーを田中仁副会長から贈呈しました。

(写真:椎崎義之)

日本写真芸術学会 学会賞授与

2.写真史研究会

写真史研究会 「日本初期写真史連続講座」 報告

 東京都写真美術館において令和 2 年 12 月 1 日~令和 3 年 1 月 24 日まで開催された「日本初期写真史 関東編」の関連事業として、東京都写真美術館と日本写真芸術学会・写真史研究会の合同により、オンライン配信の「日本初期写真史連続講座」を下記のようなプログラムで開催しました。
①「横須賀製鉄所と初期写真」
  講師:菊地勝広(横須賀市自然・人文博物館学芸員) 
  配信日時:令和 2 年 12 月 24 日 17:00 ~
② 「幕末明治の東京~変わりゆく江戸の町並み~」
  講師:井桜直美(古写真研究家、日本カメラ博物館研究員)
  配信日時:令和 2 年 12 月 27 日 17:00 ~
③ 「横浜居留地と初期写真」
  講師:斎藤多喜夫(横浜外国人居留地研究会会長、横浜開港資料館元調査研究員)
  配信日時:令和 3 年 1 月 9 日 17:00 ~
④ 「幕末明治の写真技術」
  講師:高橋則英(日本写真芸術学会会長、日本大学芸術学部教授)
  配信日時:令和 3 年 1 月 10 日 17:00 ~

コーディネーター:三井圭司(東京都写真美術館学芸員・本展覧会担当)

「日本初期写真史 関東編」は東京都写真美術館が毎年開催している、写真の起源にフォーカスした展覧会で、平成 19 年 3 月の「関東編」を皮切りに隔年で平成 25 年までシリーズで開催された「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史」展の続編です。欧州における写真発祥から日本への輸入・普及までの写真史と写真技術を概観した第一章。関東地方で活動した写真家たちの作品と、一都六県それぞれで開業した初期の写真家たちを紹介する第二章。そして最終章はバラエティに富んだ幕末明治の写真群が一堂に会し、積層する写真文化を鳥瞰する展覧会でした。
 この展覧会に深く関係したテーマで各講師が以下のような内容で講演を行いました。
①「横須賀製鉄所と初期写真」講師:菊地勝広
 横須賀製鉄所とはなにか。その役割を年譜に沿って概説し、仏人技術者ついても紹介。首長ヴェルニーと副首長ティボディエ、会計課長モンゴルフィエについてフランスでの現地調査を交えて紹介し、ヴェルニー家に伝わる資料群の写真帖や製鉄所の公式写真を撮影した化学者のレオン・ボエルについて解説。製図工長メラング家伝来の写真(横須賀市自然 ・ 人文博物館蔵)38 枚について、推定年代とのその理由、被写体の内容や状況について詳細に解説しました。
②「幕末明治の東京~変わりゆく江戸の町並み~」講師:井桜直美
 文久 3(1863)年にベアトが愛宕山から撮影した 2 種のパノラマ写真、明治 22(1889)年に田中武あるいは江崎礼二が駿河台に建設中のニコライ堂から撮影した 13 枚継のパノラマ写真という展示作品に加え、明治 37(1904)年に築地の海軍大学校で飛揚された気球から市岡太次郎が撮影した 4 枚継のパノラマ写真を解説。画面内の対象を詳細に分析し、時代の急激な変革の中で、その姿を大きく変えていった江戸の街並みを興味深く紹介しました。
③「横浜居留地と初期写真」講師:斎藤多喜夫
 昭和 56 年に開催された展覧会「下岡蓮杖と横浜写真」を起点とする初期写真研究史を自⾝の横浜開港資料館調査研究員時代の実体験に基づいて言及。ピエール・ロシエやオーリン・フリーマン、ジョン・ウィルソン、ウイリアム・ソンダース、フェリーチェ・ベアト、ライムント・フォン・シュティルフリートなど、現在までに研究が進んだ横浜居留地に関わりの深い外国人写真家たちを中心軸に据えて紹介しました。
④「幕末明治の写真技術」講師:高橋則英
 展示冒頭の章は、近年理解され難くなった歴史的写真技術を解説するものでした。講演では、試行に留まったものの日本初期写真史では重要な世界初の実用的写真術ダゲレオタイプやカロタイプなど第 1 世代の写真術から、日本最初の実用的写真術コロディオン湿板法や鶏卵紙など第 2 世代の写真術、そして近代的な写真感光材料である第 3 世代のゼラチン乾板について解説を行い、それら技術による初期写真の意義と価値が示されました。

日本初期写真史連続講座

 以上のような講演はコロナ禍の状況下で開催するため対面を避け、インターネットのライブ配信を通じて行いました。本連続講座は東京都写真美術館の企画に写真史研究会が協力して開催したもので、会員のみならず一般視聴者をはじめ、写真史を研究する学生や研究者へ広く門戸を開く内容となりました。配信後は東京都写真美術館ホームページにてアーカイヴ動画の公開が行われています。

(文:三井圭司・高橋則英)

3. 関西支部 第4回シンポジウム

関西支部 第4回シンポジウム報告

日 時: 2021年2月28日(日) 午後5時~午後7時
於  : ZOOMによるオンライン開催
パネリスト:
 同志社大学 文学部 美学芸術学科 教授 佐藤守弘 氏
 立命館大学 大学院 先端総合学術研究科 教授大阪中之島美術館 館長 竹中悠美 氏
 大阪中之島美術館 館長 菅谷富夫 氏(本学会会員)
司 会: 中山博喜 理事
出席者: 40 名

 関西支部では、第 1 回のシンポジウムから写真のアーカイブズについて議論を深めてきました。第 4 回を迎えた今回は、今までの 3 回のシンポジウムを受けて、今いちど写真のアーカイブとは何か、その問題点は何かについて議論を深める場となりました。なおコロナウイルス感染防止の観点から本学会としては初めてのオンラインでのシンポジウムとなりました。
 第一部は基調講演として佐藤守弘氏に「キャビネットのなかの世界—写真とアーカイヴズ」、竹中悠美氏に「FSA 写真アーカイブの政治性とその美学」と題して写真のアーカイブについてその現状と運営についてお話しいただき、第二部として基調講演のお二人に大阪中之島美術館館長菅谷富夫氏(本学会会員)を加えた 3 名によるパネルディスカッションを行いました。

第一部、佐藤氏の講演では、アーカイブの語源から説き起こし、複数形の「アーカイブズ」はもともと公文書館を意味し、単数形の「アーカイブ」は比喩的な批評言語と言った用語の使い分けから、公文書館、図書館、美術館におけるアーカイブの現状と特性、そして人類学資料における抑圧的な肖像写真なども含んだ「シャドウ・アーカイブ」の存在など、多くの写真資料を見せていただきながら、再度「アーカイブ」についての理解を深めることが出来ました。
 続く竹中氏の講演では、写真アーカイブの先駆的な事例として、アメリカで 1933 年のニューディール政策の一環として始まった農業保障局(FSA)による移動農民の記録写真「FSA 写真プロジェクト」について、その政治的な端緒からフリーアーカイブとして公開されるまでの流れ、また記録写真に美術的価値が付与されていく価値変動についてもお話しをいただきました。
 第二部のパネルディスカッションでは、実際に美術館という立場で写真作品の収集を行われている大阪中之島美術館館長菅谷富夫氏に加わっていただき、「コレクションとアーカイブ」について議論を深めました。モノとしての写真、ネガの取り扱い、今後のデジタルフォトの課題、そしてアーカイブに新たな価値を生み出すキュレーションなどについて、それぞれのお立場から積極的な意見交換が行われ、午後 7 時に閉会しました。

 なお最後に今回初めて試みであったオンラインでの開催につきましても報告いたします。会員への告知は基本的にメールで行い、申し込まれた方のみに ZOOM の会議 URL、 ID、パスワードをお知らせしました。当日は開始 10 分前より待機された方を順次入室。開始後は話者のみが拡大表示されるスピーカービューにて会長挨拶、基調講演と進行し、基調講演では各講師が用意された資料を画面共有しながら進めました。パネルディスカッションはパネリスト 3 名のみを拡大表示して行いました。質問はチャット(文字入力)のみで受け付け、基本的にパネリスト 3 名と司会者以外はマイクミュート、またほとんどの方がビデオもオフにされた状態でしたので、筆者の個人的な感想としては集中して講演内容やパネルディスカッションを聴講できたと思います。また今回は非会員の方も無料にて参加いただく許可を理事会にていただけましたので、積極的に非会員の方にも案内し、参加 40 名の中で非会員が 60%と言う結果になりました。非会員の方に学会の活動を知っていただく良い結果になったと思っております。

(文:村中 修)

関西支部シンポジウム

東京工芸大学名誉教授 
池田陽子遺作展 「魅せられて」人形浄瑠璃 文楽 開催報告

 令和 2 年 8 月に逝去された東京工芸大学名誉教授・池田陽子先生の遺作展「魅せられて」人形浄瑠璃文楽が、令和 3 年 7 月 1 日(木)〜 7 月 7 日(水)に、東京・四ツ谷のポートレートギャラリーにて開催されました。池田先生は、本学会の創立時より理事に就任されるなど、学会の活動に多大なるご尽力を頂きました。今回、池田先生を偲んで開催された遺作展では、半世紀以上に渡って撮影を続けて来られた「人形浄瑠璃文楽」の作品の中から 83 点のモノクロ/カラーの写真作品が展示されました。会期中、会場では大変多くの方のご来場があり、大学で 45 年間写真教育に携わって来られた先生のお人柄も垣間見える一週間となりました。改めて池田先生のご冥福をお祈り申し上げます。

(文 : 上田耕一郎)

池田先生の学会経歴

学会創立年度より、理事に就任平成 27 年度より、評議員に就任
 平成 17 年度 芸術賞受賞
 平成 27 年度 功績賞受賞
学会誌 < 創作編 > 作品掲載
 平成19年度第16巻・第2号/平成21年度第18巻・第2号/平成26年度第23巻・第2号

訃報

金子隆一(かねこ・りゅういち=写真史家)享年73歳

 東京都写真美術館の開設準備の段階から同館に関わり、以後専門調査員として開館オープニング記念展でもあった「東京|都市の視線」展(1990年)を初めとして、「核─半減期」(1995年)、「芸術写真の精華 日本のピクトリアリズム 珠玉の名品」展(2011年)など日本写真史に関わる多くの展覧会の企画や作品収蔵について担当されていました。またアメリカのヒューストン美術館などで巡回した「The History of Japanese Photography」展など国内外の美術館の写真展の企画にも多く携わり、日本写真の普及について尽力されました。専門は日本写真史。特に国内の 撮影 : 鷲尾和彦芸術写真、殊にピクトリアリズム研究の第一人者として知られていました。教育者としても武蔵野美術大学ほか多くの大学で教鞭に立ち、東京綜合写真専門学校においては 2006年から 2017年までは理事長として同校の経営にも携われていました。また国内有数の写真集コレクターとして知られ、日本を代表する写真集をまとめた著作「日本写真集史1956-1986」ではアルル国際写真フェスティバルで HistoricalBookAward 2010(2010年度最優秀賞歴史部門)を受賞され、日本の写真集の魅力を広く世界に紹介されました。日本写真協会において 2009年には学芸賞、2019年には国際賞を受賞されています。東京都台東区谷中にある「正行院」住職でもあり、雅楽の篳篥の演奏家としても知られ、後進の指導にも当たってこられました。
 当学会においては創立時の1991年より会員、1994年度より理事に就任され、2003年度より学会誌の編集委員に就任されていました。長年多大なるご尽力をいただき、これからもご活躍いただきたいと願っておりましたが残念でなりません。謹んでお悔やみ申し上げます。

(文 : 藤村里美)

追憶

久保走一先生を悼む

日本写真芸術学会理事 内藤 明

 本学会の会長を務められました久保走一先生が令和 2 年 11 月 16日ご逝去されました。享年 92 歳でした。生前の久保先生を偲び、先生のご経歴やご業績をあらためてご紹介させて頂きます。
 久保先生は日本写真芸術学会設立委員として本学会創設にご尽力され、また学会設立の平成 3 年から理事を務められ、平成 11 年から 13年まで副会長、平成 14 年から 16 年まで会長、そして平成 17 年から24 年までは評議員と長きにわたり役員として本学会の発展に多大な貢献をされました。平成 17 年には本学会の名誉賞も受賞されております。
 また、本学会だけでなく、日本写真学会においても昭和 61 年度から 62 年度、副会長、平成 2 年度から 3 年度までは会長をされており、昭和 44 年度に橘研究奨励金は「カラー写真の科学、産業応用に関する調査」で、昭和 50 年度には技術賞を「カラー写真とその応用に関する研究」で、平成 5 年度に功績賞を「学会の運営並びに写真の研究に対する貢献」で、さらに平成 9 年度には名誉賞を「写真工学の研究と教育ならびに学会の発展に対する貢献」ということで受賞されております。
 このほか、公益社団法人日本写真協会においては副会長並びに理事を務められ、また一般財団法人日本カメラ財団においても理事を務められるなど、広く日本における写真文化の発展に寄与されました。
 久保先生は千葉大学工学部の前⾝である東京工業専門学校写真科をご卒業後千葉大学に残られ助手、助教授、教授を務められ、昭和 53 年には文部省在外研究員で米国ロチェスター工科大学客員教授を務められ、その後平成 6 年 3 月千葉大学を定年退職され名誉教授の称号を授与されました。また千葉大学退職後東京工芸大学で平成 6 年から教授、平成 8 年から平成 11 年 3 月まで芸術学部長、平成 10 年から平成 12 年 3 月まで芸術学研究科長を務められるなど、一貫して大学において写真や画像の教育や研究を通して多くの門下生を育てられました。
 先生のご専門はカラー写真、色彩科学、画像評価など画像の科学であり、戦後のわが国の写真工業黎明期からこれらの分野において数多くの論文や著書があり、このことにより我が国の写真工業の発展に大きな貢献をされました。
 一方、本学会においても、平成4年度第1巻・第1号では「1990年代における写真 – 写真術の新しい視野 -」、平成5年度第2巻・第1号では「主観的に受け入れられる写真プリントの画質条件」、平成6年度第3巻・第1号・2号(合併号)では「マイカ写真とサットンのパノラマ・カメラに関する考察」、平成7年度第4巻・第1号では「わが国における初期写真教育の系譜」、平成8年第5巻・第1号では「古典カラープリント”Polychromide Print” の色安定性」、平成10年度第7巻・第1号では「古典カラー写真・微小モザイク・フィルターの現状」など、本学会においても貴重な論文を執筆されております。
 私は平成 6 年から平成 12 年までの短い期間ではありますが、東京工芸大学芸術学部写真学科の研究室において部下として先生とご一緒しました。写真、映像、画像などご専門の科学的な分野だけではなく、美術や古典などの広範囲な分野においても、博識でいらっしゃることに何時も驚くことばかりでした。まさに巨人という表現が私にとっての久保先生でした。あの数年間は私にとって貴重な時間でありました。
ここに先生のご業績とお人柄を偲び、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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