関西支部第2回シンポジウム報告
日本写真芸術学会 関西支部 第2回シンポジウム「写真のアーカイブズについて2」
日 時 2018年12月1日(土)午後3時~5時30分
於 ビジュアルアーツ専門学校 VD1校舎7B教室
パネラー 京都市立芸術大学芸術資源研究センター 山下晃平氏
大阪市立中之島美術館 研究主幹 菅谷富夫氏
司 会 吉川直哉理事 関西支部では昨年の第1回シンポジウムにおいて写真のアーカイブズについて議論を深めました。その後の研究会ではアーカイブズの対象となるべき1970年代、80年代における写真活動について、そこに主体的に関わられた方よりお話を聞かせていただき、その活動を検証しました。そして第2回のシンポジウムでは、再びアーカイブズについての理解を深めると言う観点から、アーカイブズを実践研究されている研究者の方に御登壇いただき議論を深めました。 当日は会員、非会員合わせて30名ほどが出席し、吉川理事の司会で午後3時より開式。関西支部代表村中理事、日本写真芸術学会高橋会長より挨拶の後、本日のパネリストである京都市立芸術大学芸術資源研究センターの山下晃平氏が「収集の時代からリ・サーチ(re・search)の時代へ」というテーマで発表されました。
山下氏が京都市立芸術大学芸術資源研究センターにてプロジェクトリーダーを務めておられる「井上隆雄写真資料に基づいたアーカイブの実践研究」より、「原秩序保存の原則」に基づいた資料の保存、管理の現状。そして資料の利活用、情報発信など、単なる収集に終わらない活動の現状をお話しいただきました。また同時並行的に取り組まれている美術家森村泰昌氏に関する文献資料のアーカイブについても言及され、こちらでも収集とアーカイブズの利活用の現状についてお話を聞くことが出来ました。他にも隣接領域の動向など多くの事例を挙げてお話しいただきました。そして分類法はデータベース型ではなく階層型の分類が有効ではないか、また収集するだけでなく、再調査(re・search)し、外側に向けて発信していく場を作っていくことが重要と発表を締めくくられました。
15分の休憩の後、本学会会員でもある大阪市立中之島美術館研究主幹菅谷富夫氏とのパネルディスカッションとなり、アーカイブズにおける著作権問題、「写真資料」と言う言葉の曖昧さ、未発表作品かボツ作品かの判断基準、どこで作家性を担保するのか、などについて意見交換し議論を深めました。最後に質疑応答の時間を設け参加者よりも活発な質問があり、午後5時30分に終了しました。(報告:村中 修 理事)
研究会案内
日本写真芸術学会 第1回写真史研究会 日本写真芸術学会が3本の柱として掲げている写真の表現、歴史、教育に関する会員の研究成果は、これまで年次大会の研究発表会や学会誌において発表されてきました。今後はさらにそれぞれの分野における研究の活性化と深化を目指して研究会活動を進めて行きたいと考えています。
このような主旨により、この度、下記のように第1回写真史研究会を開催することとしました。すでに会員の皆様には別紙にてご案内したところですが、今後ともご関心のある多くの方々にこのような研究会にご参加頂きたく、お願い申し上げます。日 時:令和元年8月3日(土) 15:00~17:30
会 場:東京都写真美術館 学習室 参加費:無料(定員24名・先着順)
ゲスト:ルーク・ガートラン博士(セント・アンドリュース大学准教授)
講 演:「日本における経歴─ライムント・フォン・シュティルフリートと初期横浜写真」
(逐次通訳付講演約90分、その後質疑応答・ディスカッション)
写真プリント研究会報告
「写真表現におけるプリントの意義と魅力」
日時:2018 年10 月13 日(土)15:00 ~17:00
会場:日本大学芸術学部 江古田キャンパス
創立25周年記念イベントとして開催した「写真プリントセミナー~新しいプリント時代の到来のために~」を継続するために「写真プリント研究会」を昨年行いました。それに続く研究会を平成30年10月13日(土)午後3時より日本大学芸術学部江古田キャンパス西棟3階学芸員実習室、303教室で「写真表現におけるプリントの意義と魅力」というタイトルの講演会を本学会元会長で写真家の原直久先生にお願いしました。 この研究会は、日本大学芸術学部芸術資料館および写真ギャラリーで開催中の「原 直久 時の遺産」展(10月9日~ 11月9日)に合わせて企画したものです。
研究会当日は、会員と一般聴講者を合わせて28名の参加がありました。司会進行は、当学会副会長の西垣が務め、作品鑑賞、質疑応答を含め約2時間の研究会となりました。
研究会は、高橋則英会長による挨拶で始まりました。続いて西垣より原先生の略歴を紹介し、講演となりました。
講演内容は、学生時代には広告写真家をめざしていたにもかかわらず、卒業後には大学に残り風景写真を大型カメラで撮影するようになった経緯から始まり、当時愛読していた小説やエッセイなどに触発され、影響され、ヨーロッパを撮影するようになったという被写体との出会いなどについて話されました。そしてパリ、フランス、イタリア山岳都市、スペイン、ヴェネチアなどの撮影秘話を作品や撮影風景の写真を見ながらうかがいました。次に、撮影対象が台湾、韓国、北京、上海へ移った経緯を、ヨーロッパとアジアの世界が共に大きく変化した時代背景を細かに説明され、被写体が変わった理由を説明され、そののち作品と撮影風景、アジア各国で開催された写真展などのエピソードをうかがいました。作品紹介の後は、手作りの引伸機や、プラチナプリントを制作する露光機などのあるご自身の暗室を紹介され、ネガからプラチナプリント用のデジタルインターネガを作るようになった経緯とその制作方法、その利点などを説明されました。
パワーポイントを使用した講演の後は教室を移動し、原先生の解説をうかがいながらオリジナルプリントとデジタルインターネガを直接に鑑賞しました。そこで、原先生が写真家・石元泰博の「桂」のポートフォリオの実物を見ながら、そのプリントを制作した時の秘話をうかがいました。
最後に、今回の写真展会場で、銀塩とプラチナのオリジナルプリント作品についての制作のご苦労や思い出などをうかがいました。この展覧会は写真家生活40年をこえ、作品数約14,000点の全作品の中から選び抜いた166点で2017年に台北の国立歴史博物館で開催された大規模な回顧展「時の遺産」展から更に高橋会長が選出し再構成したものです。
そして吉田成副会長の感想をまじえた挨拶により中締めとなりました。その後も、参加者は自由にオリジナルプリントを鑑賞し、個別に原先生に表現や技術についての質問などをして有意義な時間を過ごしました。全体をとおし、原先生がいかにプリントにこだわり、作品制作を継続してきたかが分かる講演会でした。
(文:研究会担当・副会長 西垣 仁美、写真:穴吹 有希、鳥海 早喜)
関西支部第5回写真研究会報告
「1970年代以降、関西の写真の動向を考え、アーカイブスの方法論を探る:フォトストリートについて」
日時:2018年9 月15 日(土)15:00 ~17:00
会場:京都造形芸術大学 大阪藝術学舎 去る平成30年9月15日(土)午後3時より、京都造形芸術大学大阪藝術学舎において、日本写真芸術学会関西支部による第5回研究会を開催しました。テーマを「1970年代以降、関西の写真の動向を考え、アーカイブスの方法論を探る:フォトストリートについて」とし、自主ギャラリーや企画展、雑誌の創刊など、様々なアプローチで1970年代から活動を続けておられる「フォトストリート」のメンバーである川口和之氏にご講演いただきました。
高橋則英会長による開会のあいさつに続き、吉川理事の進行によって川口氏にご登壇いただき、当時の状況について当事者の視点からお話しいただきました。1977年に発足したフォトストリートの活動内容やその活動に至った経緯などを、同時期に国内の様々な場所で繰り広げられていた写真活動とリンクさせながら語っていただき、活動ごとの関連性やそれぞれの立ち位置を俯瞰して考察する良い機会となりました。
発表後の質疑応答では、現在も継続して行われているフォトストリートの活動から考える将来的な活動のあり方や、1960年代から70年代にかけての大学生における写真、表現活動の変遷などについて意見が交わされ、活発な議論が行われました。
最後に中山理事より、今後も引き続き、関西における写真文化の継承について、その方法を探る研究活動を続けていくことが報告され、年末にシンポジウムを開催予定であることが発表されました。
(文、写真:中山 博喜 理事)
年次大会報告
平成30年度日本写真芸術学会年次大会報告
平成30年度日本写真芸術学会年次大会が、6月2日(土)に東京工芸大学芸術情報館で開催されました。13時30分より通常総会、14時30分から研究発表会、18時から懇親会が開催されました。
通常総会は、内藤会長が議長をつとめ、内藤議長より佐藤英裕理事が書記に指名されました。
報告事項では、まず秋元貴美子理事より本年度の役員改選選挙の結果として、理事11名、評議員7名、幹事1名が選出されたことが報告されました。その後は議事へと移り、議案は全て承認され、総会は無事に終了しました。第6号議案においては、新会長に高橋則英理事が選出され、新副会長に吉田成理事・田中仁理事・西垣仁美理事が高橋新会長より指名されました。
研究発表会は、秋元貴美子理事を座長にして調査口述1件、佐藤英裕理事を座長にして作品口述1件、吉田成理事を座長にして論文口述1件、調査口述1件、高橋則英理事を座長にして論文口述1件の計5件の発表がありました。発表の題目・発表者(所属)及び概要は下記の通りです。
1.調査口述「トーナメント競技の要素を取り入れた写真評価の報告」産業能率大学 水島 章広
趣味としての写真作品の評価を受ける場として、同好会や写真教室などで相互または指導者から評価を受ける機会や、コンテストなどに応募して評価を受ける方法がありますが、これらとは異なる「競技」としての要素を織り込んだ手法を考察し実施したことについての報告がなされました。
2.作品口述「創作写真『女R-Ⅰ』シリーズ、『女R-Ⅱ』シリーズの制作過程について」 創作写真家 菅家 令子
創作写真「女R-Ⅰ」「女R-Ⅱ」シリーズの制作過程などについて説明がなされました。印画紙の表面にクレパスを塗ったりライターで焼いたりといった、独自の手法で加工を施し、ホッチキスや糸などで貼り付けて立体的な要素も組み込み、最終的に複写をして完成形となるまでの過程が明らかになりました。
3.論文口述「フランス第二帝政期の写真表現に関する考察ー絵画複製写真を中心に」日本学術振興会特別研究員 打林 俊
フランス第二帝政期下の1855年に始まった「フランス写真協会展」の目録を資料として、同時代のフランスの写真表現の動向を検証することが可能と考え、絵画複製写真の出品数の推移に注目し、そこから見出される複製写真の史的意義についての考察が発表されました。
4.調査口述「幕末期日本関係ダゲレオタイプの調査と保存に関する研究─函館市と松前町の2点の保護処置を中心に─」◯日本大学 三木 麻里・東京都写真美術館 山口 孝子・東京国立博物館 荒木 臣紀・日本大学 高橋 則英
幕末に撮影されたダゲレオタイプを次世代が受け継げるように、世代を結ぶ持続可能型保存ネットワークの構築に関する研究を進める中で、「松前藩家老松前勘解由と従者像」と「松前藩士石塚官蔵と従者像」に劣化の進行、ハウジングの誤りが判明し、平成29年度の助成により保護処置を行ったことを中心に報告がなされました。
5.論文口述「ピエール・ロシエのネガコレクションーその概要と考察」東京大学史料編纂所 谷 昭佳
ビクトリア&アルバート博物館(イギリス・ロンドン)における報告者の調査により、新たに存在を確認した幕末の日本の姿を撮影したスイス人写真家ピエール・ロシエのコレクションと考えられるコロジオン湿板ガラスネガの概要について、速報的に報告がなされました。
最後に高橋則英新会長より、写真表現・歴史・教育を三本柱とした学会の使命を踏まえて、今後さらなる会勢拡大、活動の活性化を進めて行く上で、会員の皆様の多大なるご協力を賜りたいという会長就任の挨拶がありました。
年次大会終了後、場所を東京工芸大学食堂プレイスへ移して懇親会が催されました。
田中仁新副会長の司会進行により、和やかな雰囲気の中で参加者は楽しい時間を過ごすことができました。
今年度の学会の活動としては、昨年度に引き続き写真プリント研究会の開催、関西支部の写真研究会、シンポジウムなどが予定されております。また、学会誌も論文編に加えて創作編の発行も計画しております。次回の年次大会もより多くの皆様が参加して下さることを心より願っております。
(文:上田 耕一郎、写真:篠田 優)