ウィズコロナと創立30周年に向けて
日本写真芸術学会会員の皆様には、日頃より学会の活動にご理解ご協力を頂き感謝申し上げます。4月に行われました令和2年度第1回理事会および7月に書面表決にて行われた総会におきまして引き続き会長の任を拝命致しました。さらなる重責を感ずるとともに、改めまして一言ご挨拶を申し上げます。
平成3(1991)年に創立された日本写真芸術学会は、来年に創立30周年を迎えます。30年はそれほど遠い過去ではありませんが、写真界の状況は学会創立当時とは大きく変わっております。基盤テクノロジーの大いなる転換を主たる要因として、写真の利用や表現方法も変わり、それを支える産業界の構造も大きく変わってきました。そしてそれらを背景として現在の学会の状況や会勢も創立当初とは異なったものとなっています。
学会は近年、会員数の減少傾向が続き、それに伴って財政的にも運営の厳しさが増しているという現状があります。創立以来の学会としての使命を果たしていくためにも、会勢拡大につながる学術活動の質の向上に務めるとともに、無駄のない効率的な運営を行っていく必要があることは2年前の学会ニュースでも申し上げました。このようなことから、理事会メンバーや会員の方々のご協力も頂きながら、これまでの活動の継続とともに新たな研究会の発足や学会誌論文編のリニューアル、経費の削減など改善につながる会の運営に努めてきました。
しかしながら本年に入ってからの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は社会の状況を一変させてしまいました。会員の皆様も様々困難な日々をお過ごしのことと存じますが、学会の活動もこれまで経験したことのない影響を受けています。例年6月に開催しております年次大会での総会や研究発表会も、検討を重ねましたが、文書による総会と要旨集の送付による研究発表会とせざるを得ませんでした。また学会賞の授賞式を行うことができなかったのも大変残念なことでした。
今後予定している研究会やシンポジウムをどのような形で開催できるかは大きな問題です。感染症の推移を注視しつつ検討を重ねる必要があり、また次年度の創立30周年の総会の開催も同様です。
ホームページのリニューアルや情報発信の電子化についても、方針として上げておきながら進行が滞っていることを反省しておりますが、このような状況であるからこそ、それらの手段が有効であることを痛感し充実に努めていきたいと考えております。
一方でこの状況を今後の学会活動のあるべき姿を目指す改革の機として捉えることも必要かと思います。今回の文書による年次大会は、会員全員に総会資料や研究発表要旨を配布できました。これまでにないメリットであったと思います。また理事会をオンラインで行うことで、これまで対面会議では難しかった遠方の理事の方々の参加が、より容易になったこともこれまでになかったことで、これを契機に今後も続けていくことが望ましいと考えております。
いずれにしましても今後の学会活動には困難な状況が待っていると予想されますが、可能な限りの活動を継続するとともに、新たな形で創立30周年の年を迎えることができればと存じます。そのためには会員の皆様のさらなるご理解とご協力が必要となります。どうぞよろしくお願いを申し上げる次第です。末筆ながら皆様のお変わりないご健勝を祈念しご挨拶とさせて頂きます。
日本写真芸術学会会長 高橋則英
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総会報告
新型コロナウイルス感染症の影響を鑑み、文書総会として行われた令和2年度第29回通常総会は7月31日の返信ハガキ締め切り結果、
以下の全てにおいて了承されましたことをご報告致します。
日本写真芸術学会 第29回通常総会(議案送付による文書総会書面表決書)
◎報告事項
1.理事・監事・評議員改選選挙結果報告
◎議事
第1号議案 会務会勢報告
第2号議案 令和元年度事業報告
第3号議案 令和元年度会計・会計監査報告
第4号議案 令和2年度事業計画
第5号議案 令和2年度予算案
第6号議案 会長・副会長選出の件
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関西支部 第3回シンポジウム 報告書
テーマ:写真のアーカイブズについて 3
日時:2020年2月15日(土) 午後3時〜午後6時
於:ビジュアルアーツ専門学校VD-1 校舎 アーツホール
パネリスト:新潟大学人文社会学系人文学部教授 地域映像アーカイブセンター
原田 健一 氏
大津市歴史博物館 学芸員 木津 勝 氏
司 会:金澤 徹 理事
出席者:20名
関西支部では、第 1 回のシンポジウムから写真のアーカイブズについて議論を深めてきました。第 3 回のシンポジウムにおいてもこれまでの内容に続き、パネリストとして新潟大学地域映像アーカイブセンターの原田健一先生、そして大津市歴史博物館学芸員の木津勝氏にご登壇いただいて、地方におけるアーカイブの取り組みについてご紹介いただきました。
最初に、関西支部代表の村中理事より、関西支部におけるこれまでの研究会、シンポジウムの歩みについて説明があり、日本写真芸術学会の高橋会長による挨拶の後、「大津市歴史博物館の写真アーカイブ」というテーマで、木津氏にお話しいただきました。
当初は写真を主たるコレクションとして取り扱っていなかった大津市歴史博物館ですが、開館から今年で30年という過程において、大津市の歴史を語る多くの写真資料が集まり、1998年ごろから写真のデジタルアーカイブ化を図ったことが紹介され、それらの資料が集まった経緯や方法、そして保存や活用方法について説明いただきました。先に述べたように、もともと写真を専門的に取り扱う予定がなかったこともあり、写真の保存、管理に関してはその年代によって手探り状態で行われており、膨大なフィルムや写真を取り扱うことの難しさを改めて認識した時間となりました。これらの資料は博物館のホームページを通して公開されており、5年毎に検索方法などの構成を見直し、時代に準じた技術やルールを取り入れて更新しているとのことでした。
続いて、原田先生には、主にデジタルデータ化された映像の活用方法についてお話しいただき、地域の歴史を物語る映像資料の重要さを説くためのポイントとして、圧倒的なアーカイブデータを公開し、それらの内容を読み解く行為は鑑賞者に委ねることを上げておられました。アーカイブの対象となる写真や映像が保存されている地域や条件についても触れられており、現在の地図で資料の発掘先を推測することの危険性について、実際の写真資料などと共にお話しいただきました。2000年代に入り、デジタル技術や通信環境が大きな進歩を遂げ、肖像権や著作権といった権利に対する社会の認識も多様化しつつある今、鑑賞者の権利なども含め、これからのアーカイブがどうあるべきなのかを考えさせられる時間でした。
後半は、本学会理事の金澤先生にもパネリストとして加わっていただき、映像資料をいかにして社会に還元すべきなのか、どのように共有できるのかという話を中心に、パネルディスカッションが繰り広げられました。また、質疑応答では “ データベース ” と “ アーカイブ ” の違いについて意見が交わされ、資料のデジタル化に伴う言語の変容についても意見が飛び交いました。最後に、デジタルデータの保存方法に話が及び、各パネリストからはそれぞれの具体的な活動が紹介されました。
今回のシンポジウムは、“ 写真 ” というメディアの持つ記録性が、それぞれの地域の歴史を語るための資料として重要な役割を果たしていることを再認識すると共に、保存技術や権利の問題、そしてデジタル化や通信技術の進歩など、時代に準じたアーカイブのあり方について考える、貴重な機会となりました。
(文責:中山博喜)
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ニュース
田沼武能評議員 令和元年度「文化勲章」受章
日本写真芸術学会の評議員であり、学会創設時より多大なるご尽力をいただいている写真家の田沼武能先生が、令和元年11月3日付で文化勲章を受章されました。
田沼先生は昭和4年に東京浅草に生まれ、昭和24年に東京写真工業専門学校(現、東京工芸大学)を卒業後、サン・ニュース・フォトスに入社して木村伊兵衛の助手となり、写真家としての人生をスタートされました。昭和26年より『藝術新潮』の嘱託写真家として文化人の肖像写真による連載で注目を集め、昭和40年にはアメリカのタイム・ライフ社と契約し、フォトジャーナリズムの分野で世界的に活躍されています。また、昭和59年から黒柳徹子ユニセフ(国連児童基金)親善大使の援助国訪問に全て同行するなど、これまでの取材活動は世界120カ国以上に及んでいます。
田沼先生は90歳を超えた今日までの70年余、常に第一線の写真家として優れた作品を発表し続けながら、平成6年には東京工芸大学教授に就任し、教育の現場において後進の育成に尽力(現在は名誉教授)。さらに平成7年から日本写真家協会の会長に就任し、同協会の社団法人化に奔走し、平成13年に社団法人として認可を得るなど、平成27年の退任まで20年の長きにわたって同協会を牽引されました。
また現在でも、日本写真著作権協会会長、日本写真保存センター代表を務めるなど、永年にわたり写真界の要職に就き、我が国の写真界の発展に力を尽くされてきた功績が今回の受章につながりました。
田沼先生の文化勲章受章は写真分野からの初めての栄誉となり、写真文化の向上と普及に寄与することを目的に設立された本学会としても大変喜ばしいニュースです。
田沼先生の今後ますますのご活躍をお祈りいたします。
(文:吉野弘章)
※ 田沼先生の文化勲章受章を記念して写真展が開催されます。
田沼武能 文化勲章受章記念写真展「日本の子ども 世界の子ども」
日 時 :令和2年4月10日(金)〜 5月17日(日)会期中無休 10:00〜 20:00
会 場 :東京工芸大学 中野キャンパス6号館 ギャラリー 6B01
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写真史研究会報告
第1回写真史研究会報告
「日本における経歴―ライムント・フォン・シュティルフリートと初期横浜写真」
ゲスト:ルーク・ガートラン (セント・アンドリュース大学准教授)
日 時:令和元年8月3日(土) 15:00 〜 17:30
会 場:東京都写真美術館 学習室
日本写真芸術学会が、推し進めるべき学問的研究分野の3本の柱として掲げている写真の表現、歴史、教育に関する会員の研究成果は、これまで年次大会の研究発表会や学会誌において発表されてきました。学会ではさらにそれぞれの分野における研究の活性化と深化を目指して研究会活動を進めて行きたいと考えています。このような主旨により、この度、歴史分野において写真史研究会を開催する運びとなりました。
第1回の写真史研究会は、明治初期の日本で活躍した写真家シュティルフリート研究の第一人者であるルーク・ガートラン博士をお招きして、令和元年8月3日(土)午後3時より東京都写真美術館の学習室をお借りして開催しました。
今回の研究会は、現在スコットランドのセント・アンドリュース大学美術史学科(スクール・オブ・アートヒストリー)で准教授をされているガートラン先生がサバーティカル休暇による研究のため日本に滞在されているというタイミングをとらえて講演をお願いしたものです。また本年度から理事会メンバーとなった藤村里美理事(東京都写真美術館)、また写真美術館で長く写真の歴史展に取り組み学会でも発表頂いている三井圭司会員にも尽力頂いて、東京都写真美術館に共催というかたちでご協力頂き、会場をお借りしたものです。
講演は、シュティルフリート研究の集大成として2016年に刊行された著作『A Career of Japan: Baron Raimund von Stillfried and Early Yokohama Photography(日本における経歴―ライムント・フォン・シュティルフリートと初期横浜写真)』の内容を中心としてお話し頂きました。シュティルフリートは、1872(明治5)年の横須賀造船所における明治天皇盗撮のエピソードや、横浜写真の制作でその名は比較的よく知られているものの、経歴の詳細はこれまであまり深く研究されることはありませんでした。この研究会は、明治初期の日本において重要な役割を果たしたシュティルフリートの広く知られることのなかった業績を解説し、我が国の初期写真史の再考察を目指したもので、シュティルフリートとその周辺のスタジオや写真家の事歴が併記された年表も配布され、参加者は熱心にガートラン先生の講演に聞きいっていました。
会場の関係で定員は少なめでしたが、会員外の大学や美術館の研究者も交えた25名の参加者があり、研究会に続いての懇親会でも活発な意見交換も行われ、たいへんに興味深く有意義な写真史研究会になったと思います。今後も継続して写真研究会を開催したいと考えます。今後ともご関心のある多くの会員の方にご参加頂きたく、お願い申し上げます。
(文:高橋則英 / 写真:田中里実)
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関西支部研究会報告
関西支部 第6回研究会報告
第6回研究会テーマ
1970 年代以降の関西の写真の動向を考え、アーカイブスの方法論を探る
「京都を中心とした写真活動について」
日 時:令和元年9月7日(土)17:00 〜 19:00
会 場:ビジュアルアーツ専門学校 VD-1 校舎7階 7B教室
司 会:村中 修 理事 / 関西支部代表
ゲスト:写真編集者 中川繁夫 氏
聞き手:金澤 徹 理事
出席者:20名
関西支部では写真のアーカイブスをテーマにシンポジウム、研究会を重ねてきましたが、今回は1970年代に関西で写真図書館、写真表現大学、ギャラリーなどの設立運営に携わってきた中川繁夫さんをお迎えして研究会を行いました。関西支部代表、村中理事の司会で始まり、高橋会長の挨拶の後、ご本人の写真家としての活動のスタートから、当時の時代背景を絡めて東京、関西、特に京都での写真活動に、どのように関わられてきたかを自分史という形で詳細に語っていただきました。
当初は東京にて小説家を志すが果たせずに京都に戻り写真と出会う。既存の美術団体や写真団体に属し、入賞もするがそのことに飽きたらずにカメラ毎日などの写真雑誌、北井一夫作品 「村へ」 などから影響を受け、釜ヶ崎をテーマに撮影を始める。撮りためた作品を用いて 1979年に釜ヶ崎で青空写真展を開催。また自ら編集長となって雑誌「季刊釜ヶ崎」、並行して写真評論誌「映像情報」を発刊。写真家としてのキャリアの当初から、中川氏にとって、常に写真と言葉が一体であったことを強く感じました。
大きな転機となったのは 1982 年に大阪で開催された「東松照明の世界展」実行委員会に参加されたことでした。この実行委員会で多くの関西の若手写真家、ギャラリストと出会い、そして何よりも東松照明氏と出会われたことがその後の展開に大きな影響を与えました。1974 年に東京で始まる「ワークショップ写真学校」、沖縄の宮古大学のように、京都で写真を学ぶワークショップを立ち上げる現地ブレーンとして当時作品制作のために京都に滞在されていた東松氏と何度も話されたとのことでした。
東松氏のワークショップは結果的に実現しませんでしたが、中川氏ご自身が立ち上げられた「フォトハウス構想」の一環として、有志による泊まりがけのゾーンシステムのワークショップ、京都フォトシンポジウムなどに繋がっていきます。このワークショップには当時まだ助手として大学に在籍されていた高橋会長も講師として招かれたとのこと。さらにこの流れが写真図書館を立ち上げることや、その後の写真表現大学の運営に関わっていくことなどに繋がります。
冊子発行やワークショップの開催、写真図書館やギャラリー運営、写真展の開催など、関わられてきた様々な活動について、当時の印刷物やチラシなど、豊富な資料をお持ちいただき、休憩時間には自由に手にとって見ることができました。休憩後は中川繁夫氏と親交の深い本学会金澤理事が聞き手となって、前段でお話しいただいたいくつかの事柄についてさらに掘り下げてお話を聞くことができ、最後に来場者からの質疑応答で締めくくりました。出席された田中仁副会長も言われていましたが、中川氏の個人史ではありますが、さながら関西における現代写真史を聞かせていただいたような、実に充実した研究会となりました。
(文:村中 修)
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写真プリント研究会報告
第3回写真プリント研究会報告
「ピエゾグラフィー〜デジタルモノクロプリントの可能性」
ゲスト:松平光弘(アトリエマツダイラ・東京工芸大学講師)
日 時:令和元年 12月7日(土)14:00 〜 16:00
会 場:東京工芸大学 中野キャンパス 1号館2階 講義室 1203
本学会では、写真表現において、最も基本的かつ写真作品の根源ともいうべき “ プリント ”を大切にしていきたいと考えています。現在、写真は身近なコミュニケーションのツールであり、アートの重要な表現手段の一つとなっています。また、デジタル技術の急速な発達に伴い、発表の場や方法も多様化し、写真表現そのものも変化してきました。このような時代の流れの中で、写真表現とプリントの今後について会員の皆様と共に考えるため、平成 28 年度に「写真プリントセミナー」を開催して好評を博しました。本学会では、その後 2 回の写真プリント研究会を開催し、今回は第 3 回目にあたります。第 3 回写真プリント研究会は、講師としてアトリエマツダイラ代表で東京工芸大学講師の松平光弘先生をお迎えして、令和元年12月7日(土)の 14:00 より 16:00まで東京工芸大学中野キャンパス1号館2階の講義室 1203 において開催しました。当日は50名のご参加を頂きました。
今回、松平先生には「ピエゾグラフィー〜デジタルモノクロプリントの可能性」という演題でお話し頂きました。ピエゾグラフィーは、アメリカで開発されたモノクロ専用7 段階のグレーインクをエプソンのインクジェットプリンタに搭載し、特別なプリンタドライバで出力する高品質のデジタルプリントのことをいいます。ご講演では、ピエゾグラフィーの優位性や制作方法などについて、わかりやすくご説明頂いただけではなく、プラチナプリントなど古典印画技法のネガ作成への応用の可能性にも触れて頂きました。ソフトな語り口によるご講演の後、実物のプリントを目の前にしながら、ご参加頂いた皆さまからの質問に気軽に答えて頂きました。写真制作の新しい可能性を感じさせる有意義な研究会になったのではないかと思います。日本写真芸術学会では、これからもさまざまな研究会を開催して会員の皆様の制作・研究活動のお役に立ちたいと考えておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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年次大会報告
令和元年度日本写真芸術学会年次大会報告
令和元年度日本写真芸術学会年次大会が、6月8日(土)に東京工芸大学芸術情報館で開催されました。10時より通常総会、11時から研究発表会、18時から学会賞授与式、18時30分から懇親会が開催されました。
先ず冒頭での実行委員長の開会の辞に続き、高橋会長が挨拶を行い、会勢や財政の現状を鑑み、学会としての活動活性化とその質の向上の必要性、新たな研究会の発足や学会誌のリニューアル、経費の削減による財政状況改善への取り組みなどを述べました。
続いて通常総会では、高橋会長が議長をつとめ、高橋議長より上田耕一郎理事が書記に指名されました。報告事項では、まず佐藤英裕理事より本年度の役員改選選挙の結果として、理事12名、評議員4名、幹事1名が選出されたことが報告されました。その後は議事へと移り、議案は全て承認され、総会は無事に終了しました。
研究発表会は、上田耕一郎理事を座長にして調査口述2件、田中仁理事を座長にして調査口述2件、佐藤英裕理事を座長にして論文口述2件、吉田成理事を座長にして論文口述3件、西垣仁美理事を座長にして論文口述2件の計11件の発表がありました。発表の題目・発表者(所属)及び概要は下記の通りです。
発表1(調査口述)「戦前のニュース写真発見」石黒敬章(ゆうもあくらぶ)
存外少ない戦前のニュース写真を、最近収集した中から、こんなニュースがあったのかと思われる明るいニュースを選んで紹介がなされました。
発表2(調査口述)「明治三陸津波をいち早く撮った末崎仁平」沼田清(共同通信社)
1896年6月の明治三陸津波の際に、岩手県鍬ヶ崎町(現宮古市鍬ヶ崎)の惨状をいち早く記録した地元の写真師・末崎仁平について、作品とその発掘の経緯を紹介するとともに、最近判明した出自や、宮内庁への写真献納経過が報告がなされました。
発表3(調査口述)「風景写真競技会の評価観点についての考察」水島章広(産業能率大学)
トーナメント競技の要素を入れた風景写真評価の楽しみ方を実践する中で課題であった、ジャッジ育成のために必要な作品評価の基準づくりについての調査と考察について発表がなされました。
発表4(調査口述)「アクティブラーニングによる初心者向け写真撮影の授業の実践について」丸山松彦(玉川大学)
教育機関における限られた時間のなかで、写真の撮影技術を取り扱う際の効果的な学習方法と授業運営について、アクティブ・ラーニングによる授業の実践について解説がなされました。
発表5(論文口述)「〈インスタグラミズム〉の写真芸術学的考察」石橋賢明(東京工芸大学大学院)
既存の写真論とは異なるマノヴィッチ独自のアプローチによって明らかにされた美学である〈インスタグラミズム〉の概念について、その著書『インスタグラムと現代写真文化』での論述を中心に、写真芸術学的見地からの検討が報告がなされました。
発表6(論文口述)「2次元フーリエ変換による写真の客観的評価に関する研究」伊藤雅浩,福川芳郎(ブリッツ・インターナショナル)
「良い写真」「悪い写真」という感覚的で曖昧な表現で語られることが多い写真の評価について、2次元フーリエ変換による数値的な客観評価方法の確立を目的とした研究が報告がなされました。
発表7(論文口述)「沖縄の〈写真館文化〉の特色について」李京彦(大阪芸術大学大学院)
日本本土の営業写真館が創り出した〈写真館文化〉とは異なる特色を持つ沖縄の営業写真館の歴史と、時代・地域社会の特性などから現れる特色と変遷について報告がなされました。
発表8(論文口述)「ピーター・ヘンリー・エマーソンと自然主義写真のゆくえ ─日本における 受容と展開に関する考察」打林俊(日本大学)
我が国のピクトリアリズムの成立を考える上で重要なピーター・ヘンリー・エマーソンの写真史における位置づけと、日本写真史における受容を中心に考察が報告がなされました。
発表9(論文口述)「島津斉彬が取り組んだダゲレオタイプとカロタイプ─異なる写真技術に取り組んだ背景に対する―考察―」安藤千穂子(京都工芸繊維大学)
被写体との関係性を軸に、ダゲレオタイプとカロタイプという二つの写真技術に島津斉彬が取り組んだ背景について報告がなされました。
発表10(論文口述)「文化財としての写真原板の活用」三井圭司(東京都写真美術館),三木麻里(日本大学)
写真師・堀内信重が撮影したコロディオン湿板方式原板から印画した鶏卵紙とデジタル・データとの差違について考察された結果が報告がなされました。
発表11(論文口述)「植田正治カラー作品研究─原板の保存とデジタルアーカイブ─」田中仁(東京工芸大学)
日本を代表する写真家の一人といえる植田正治の生家に残されている未整理のカラー作品の保存とデジタルアーカイブを行った結果が報告がなされました。
学会賞授与式では、本年度は名誉賞に原直久氏、芸術賞に原直久氏、功績賞に永坂嘉光氏が受賞されました。授賞理由は以下の通りです。
原直久氏は本学会発足に際し設立委員として参加、初年度より理事として永く学会の発展に寄与してこられました。とくに平成14年度から15年度は副会長として、さらに平成16年度から26年度まで10年の長きにわたり会長をつとめられ、この間3回にわたる九州シンポジウムの開催等をはじめとして学会の活性化と発展に尽力されました。また会長退任後も理事として学会の運営に携わるとともに写真プリント研究会での講演等継続して学会の活性化に寄与されました。以上のような本学会発展に対する顕著かつ多大な貢献に対して名誉賞を授与致しました。
また、原直久氏は1973年以来、8×10インチ大判カメラを用いて作品制作を継続し、国内外で作品を発表する作家活動は40年以上にわたります。平成30年にはその集大成といえる全貌が見える写真展「原直久 時の遺産」展が日本大学芸術学部芸術資料館で、および千葉の海岸、九十九里浜等の初期作品展がフォト・ギャラリー・インターナショナルにおいて開催されました。さらに、東京都写真美術館の企画展にも「イタリア山岳丘上都市」のシリーズ作品が選出されています。以上のような写真展と長年にわたる作品活動に対して芸術賞を授与いたしました。
永坂嘉光氏は長年にわたり、理事として関西を中心に学会活動の牽引に勤めてこられました。とくに多くの関西シンポジウムの企画、運営に顕著な業績を残し、本学会発展に寄与にしたことに対して功績賞を授与いたしました。
年次大会の最後には吉田成副会長が閉会の挨拶を行い、その後場所を東京工芸大学食堂プレイスへ移して懇親会が催されました。上田耕一郎理事の司会進行により、和やかな雰囲気の中で参加者は楽しい時間を過ごすことができました。
今年度の学会活動としては、昨年度に引き続き写真プリント研究会の開催と関西支部の写真研究会とシンポジウムが予定されております。また、夏期に写真史研究会をはじめて開催いたします。ぜひ積極的なご参加をお待ち申しあげます。また、本年度は学会誌論文編を2巻発行の予定です。論文投稿が活性化し充実したものとなりますようお願いいたします。そして次年度の年次大会もより多くの皆さまにご参加いただけますことを願っております。
(報告:秋元貴美子理事、写真:高田有輝)
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関西支部第2回シンポジウム報告
日本写真芸術学会 関西支部 第2回シンポジウム「写真のアーカイブズについて2」
日 時 2018年12月1日(土)午後3時〜5時30分
於 ビジュアルアーツ専門学校 VD1校舎7B教室
パネラー 京都市立芸術大学芸術資源研究センター 山下晃平氏
大阪市立中之島美術館 研究主幹 菅谷富夫氏
司 会 吉川直哉理事
関西支部では昨年の第1回シンポジウムにおいて写真のアーカイブズについて議論を深めました。その後の研究会ではアーカイブズの対象となるべき1970年代、80年代における写真活動について、そこに主体的に関わられた方よりお話を聞かせていただき、その活動を検証しました。そして第2回のシンポジウムでは、再びアーカイブズについての理解を深めると言う観点から、アーカイブズを実践研究されている研究者の方に御登壇いただき議論を深めました。
当日は会員、非会員合わせて30名ほどが出席し、吉川理事の司会で午後3時より開式。関西支部代表村中理事、日本写真芸術学会高橋会長より挨拶の後、本日のパネリストである京都市立芸術大学芸術資源研究センターの山下晃平氏が「収集の時代からリ・サーチ(re・search)の時代へ」というテーマで発表されました。
山下氏が京都市立芸術大学芸術資源研究センターにてプロジェクトリーダーを務めておられる「井上隆雄写真資料に基づいたアーカイブの実践研究」より、「原秩序保存の原則」に基づいた資料の保存、管理の現状。そして資料の利活用、情報発信など、単なる収集に終わらない活動の現状をお話しいただきました。また同時並行的に取り組まれている美術家森村泰昌氏に関する文献資料のアーカイブについても言及され、こちらでも収集とアーカイブズの利活用の現状についてお話を聞くことが出来ました。他にも隣接領域の動向など多くの事例を挙げてお話しいただきました。そして分類法はデータベース型ではなく階層型の分類が有効ではないか、また収集するだけでなく、再調査(re・search)し、外側に向けて発信していく場を作っていくことが重要と発表を締めくくられました。
15分の休憩の後、本学会会員でもある大阪市立中之島美術館研究主幹菅谷富夫氏とのパネルディスカッションとなり、アーカイブズにおける著作権問題、「写真資料」と言う言葉の曖昧さ、未発表作品かボツ作品かの判断基準、どこで作家性を担保するのか、などについて意見交換し議論を深めました。最後に質疑応答の時間を設け参加者よりも活発な質問があり、午後5時30分に終了しました。
(報告:村中 修 理事)
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研究会案内
日本写真芸術学会 第1回写真史研究会
日本写真芸術学会が3本の柱として掲げている写真の表現、歴史、教育に関する会員の研究成果は、これまで年次大会の研究発表会や学会誌において発表されてきました。今後はさらにそれぞれの分野における研究の活性化と深化を目指して研究会活動を進めて行きたいと考えています。
このような主旨により、この度、下記のように第1回写真史研究会を開催することとしました。すでに会員の皆様には別紙にてご案内したところですが、今後ともご関心のある多くの方々にこのような研究会にご参加頂きたく、お願い申し上げます。
日 時:令和元年8月3日(土) 15:00〜17:30
会 場:東京都写真美術館 学習室 参加費:無料(定員24名・先着順)
ゲスト:ルーク・ガートラン博士(セント・アンドリュース大学准教授)
講 演:「日本における経歴─ライムント・フォン・シュティルフリートと初期横浜写真」
(逐次通訳付講演約90分、その後質疑応答・ディスカッション)
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写真プリント研究会報告
「写真表現におけるプリントの意義と魅力」
日時:2018 年10 月13 日(土)15:00 〜17:00
会場:日本大学芸術学部 江古田キャンパス
創立25周年記念イベントとして開催した「写真プリントセミナー〜新しいプリント時代の到来のために〜」を継続するために「写真プリント研究会」を昨年行いました。それに続く研究会を平成30年10月13日(土)午後3時より日本大学芸術学部江古田キャンパス西棟3階学芸員実習室、303教室で「写真表現におけるプリントの意義と魅力」というタイトルの講演会を本学会元会長で写真家の原直久先生にお願いしました。
この研究会は、日本大学芸術学部芸術資料館および写真ギャラリーで開催中の「原 直久 時の遺産」展(10月9日〜 11月9日)に合わせて企画したものです。
研究会当日は、会員と一般聴講者を合わせて28名の参加がありました。司会進行は、当学会副会長の西垣が務め、作品鑑賞、質疑応答を含め約2時間の研究会となりました。
研究会は、高橋則英会長による挨拶で始まりました。続いて西垣より原先生の略歴を紹介し、講演となりました。
講演内容は、学生時代には広告写真家をめざしていたにもかかわらず、卒業後には大学に残り風景写真を大型カメラで撮影するようになった経緯から始まり、当時愛読していた小説やエッセイなどに触発され、影響され、ヨーロッパを撮影するようになったという被写体との出会いなどについて話されました。そしてパリ、フランス、イタリア山岳都市、スペイン、ヴェネチアなどの撮影秘話を作品や撮影風景の写真を見ながらうかがいました。次に、撮影対象が台湾、韓国、北京、上海へ移った経緯を、ヨーロッパとアジアの世界が共に大きく変化した時代背景を細かに説明され、被写体が変わった理由を説明され、そののち作品と撮影風景、アジア各国で開催された写真展などのエピソードをうかがいました。作品紹介の後は、手作りの引伸機や、プラチナプリントを制作する露光機などのあるご自身の暗室を紹介され、ネガからプラチナプリント用のデジタルインターネガを作るようになった経緯とその制作方法、その利点などを説明されました。
パワーポイントを使用した講演の後は教室を移動し、原先生の解説をうかがいながらオリジナルプリントとデジタルインターネガを直接に鑑賞しました。そこで、原先生が写真家・石元泰博の「桂」のポートフォリオの実物を見ながら、そのプリントを制作した時の秘話をうかがいました。
最後に、今回の写真展会場で、銀塩とプラチナのオリジナルプリント作品についての制作のご苦労や思い出などをうかがいました。この展覧会は写真家生活40年をこえ、作品数約14,000点の全作品の中から選び抜いた166点で2017年に台北の国立歴史博物館で開催された大規模な回顧展「時の遺産」展から更に高橋会長が選出し再構成したものです。
そして吉田成副会長の感想をまじえた挨拶により中締めとなりました。その後も、参加者は自由にオリジナルプリントを鑑賞し、個別に原先生に表現や技術についての質問などをして有意義な時間を過ごしました。全体をとおし、原先生がいかにプリントにこだわり、作品制作を継続してきたかが分かる講演会でした。
(文:研究会担当・副会長 西垣 仁美、写真:穴吹 有希、鳥海 早喜)
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関西支部第5回写真研究会報告
「1970年代以降、関西の写真の動向を考え、アーカイブスの方法論を探る:フォトストリートについて」 日時:2018年9 月15 日(土)15:00 〜17:00
会場:京都造形芸術大学 大阪藝術学舎
去る平成30年9月15日(土)午後3時より、京都造形芸術大学大阪藝術学舎において、日本写真芸術学会関西支部による第5回研究会を開催しました。テーマを「1970年代以降、関西の写真の動向を考え、アーカイブスの方法論を探る:フォトストリートについて」とし、自主ギャラリーや企画展、雑誌の創刊など、様々なアプローチで1970年代から活動を続けておられる「フォトストリート」のメンバーである川口和之氏にご講演いただきました。
高橋則英会長による開会のあいさつに続き、吉川理事の進行によって川口氏にご登壇いただき、当時の状況について当事者の視点からお話しいただきました。1977年に発足したフォトストリートの活動内容やその活動に至った経緯などを、同時期に国内の様々な場所で繰り広げられていた写真活動とリンクさせながら語っていただき、活動ごとの関連性やそれぞれの立ち位置を俯瞰して考察する良い機会となりました。
発表後の質疑応答では、現在も継続して行われているフォトストリートの活動から考える将来的な活動のあり方や、1960年代から70年代にかけての大学生における写真、表現活動の変遷などについて意見が交わされ、活発な議論が行われました。
最後に中山理事より、今後も引き続き、関西における写真文化の継承について、その方法を探る研究活動を続けていくことが報告され、年末にシンポジウムを開催予定であることが発表されました。
(文、写真:中山 博喜 理事)
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年次大会報告
平成30年度日本写真芸術学会年次大会報告
平成30年度日本写真芸術学会年次大会が、6月2日(土)に東京工芸大学芸術情報館で開催されました。13時30分より通常総会、14時30分から研究発表会、18時から懇親会が開催されました。
通常総会は、内藤会長が議長をつとめ、内藤議長より佐藤英裕理事が書記に指名されました。
報告事項では、まず秋元貴美子理事より本年度の役員改選選挙の結果として、理事11名、評議員7名、幹事1名が選出されたことが報告されました。その後は議事へと移り、議案は全て承認され、総会は無事に終了しました。第6号議案においては、新会長に高橋則英理事が選出され、新副会長に吉田成理事・田中仁理事・西垣仁美理事が高橋新会長より指名されました。
研究発表会は、秋元貴美子理事を座長にして調査口述1件、佐藤英裕理事を座長にして作品口述1件、吉田成理事を座長にして論文口述1件、調査口述1件、高橋則英理事を座長にして論文口述1件の計5件の発表がありました。発表の題目・発表者(所属)及び概要は下記の通りです。
1.調査口述「トーナメント競技の要素を取り入れた写真評価の報告」産業能率大学 水島 章広
趣味としての写真作品の評価を受ける場として、同好会や写真教室などで相互または指導者から評価を受ける機会や、コンテストなどに応募して評価を受ける方法がありますが、これらとは異なる「競技」としての要素を織り込んだ手法を考察し実施したことについての報告がなされました。
2.作品口述「創作写真『女R-T』シリーズ、『女R-U』シリーズの制作過程について」 創作写真家 菅家 令子
創作写真「女R-T」「女R-U」シリーズの制作過程などについて説明がなされました。印画紙の表面にクレパスを塗ったりライターで焼いたりといった、独自の手法で加工を施し、ホッチキスや糸などで貼り付けて立体的な要素も組み込み、最終的に複写をして完成形となるまでの過程が明らかになりました。
3.論文口述「フランス第二帝政期の写真表現に関する考察ー絵画複製写真を中心に」日本学術振興会特別研究員 打林 俊
フランス第二帝政期下の1855年に始まった「フランス写真協会展」の目録を資料として、同時代のフランスの写真表現の動向を検証することが可能と考え、絵画複製写真の出品数の推移に注目し、そこから見出される複製写真の史的意義についての考察が発表されました。
4.調査口述「幕末期日本関係ダゲレオタイプの調査と保存に関する研究─函館市と松前町の2点の保護処置を中心に─」◯日本大学 三木 麻里・東京都写真美術館 山口 孝子・東京国立博物館 荒木 臣紀・日本大学 高橋 則英
幕末に撮影されたダゲレオタイプを次世代が受け継げるように、世代を結ぶ持続可能型保存ネットワークの構築に関する研究を進める中で、「松前藩家老松前勘解由と従者像」と「松前藩士石塚官蔵と従者像」に劣化の進行、ハウジングの誤りが判明し、平成29年度の助成により保護処置を行ったことを中心に報告がなされました。
5.論文口述「ピエール・ロシエのネガコレクションーその概要と考察」東京大学史料編纂所 谷 昭佳
ビクトリア&アルバート博物館(イギリス・ロンドン)における報告者の調査により、新たに存在を確認した幕末の日本の姿を撮影したスイス人写真家ピエール・ロシエのコレクションと考えられるコロジオン湿板ガラスネガの概要について、速報的に報告がなされました。
最後に高橋則英新会長より、写真表現・歴史・教育を三本柱とした学会の使命を踏まえて、今後さらなる会勢拡大、活動の活性化を進めて行く上で、会員の皆様の多大なるご協力を賜りたいという会長就任の挨拶がありました。
年次大会終了後、場所を東京工芸大学食堂プレイスへ移して懇親会が催されました。
田中仁新副会長の司会進行により、和やかな雰囲気の中で参加者は楽しい時間を過ごすことができました。
今年度の学会の活動としては、昨年度に引き続き写真プリント研究会の開催、関西支部の写真研究会、シンポジウムなどが予定されております。また、学会誌も論文編に加えて創作編の発行も計画しております。次回の年次大会もより多くの皆様が参加して下さることを心より願っております。
(文:上田 耕一郎、写真:篠田 優)
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写真プリント研究会報告
昨年度、日本写真芸術学会は、学会創立25周年記念イベントとして、「写真プリントセミナー〜新しいプリント時代の到来のために〜」を開催し、好評を博しました。それを受けて、2017年11月25日(土)午後2時より、東京工芸大学中野キャンパス1203教室において、「写真プリント研究会」を開催しました。講演者は、日本写真芸術学会会長で東京工芸大学名誉教授の内藤明先生にお願いしました。
研究会当日は、会員と一般聴講者を合わせて33名の参加者がありました。司会進行は、当学会副会長の吉田が務め、質疑応答を含めて約100分の研究会となりました。
ご講演は、写真像の特性のうち、最も根源的な要素である階調について、その階調再現は濃度によって形成されること、さらにその濃度を考える時、対数で提示する根拠をウェーバー・フェヒナーの法則に触れながら調子再現についての説明からはじまりました。
次に、近年の黒白印画紙での調査ということで、号数による描写の相違について、7種類の印画紙による現物のプリントサンプルが提示されました。さらに、多階調印画紙において階調がフィルターによって変化する仕組み、ご自身が測定された各社多階調フィルターの分光特性における相違の説明もありました。また、作図された特性曲線での各社号数紙での相違や号数紙と多階調印画紙の違いの説明の他、現像時間、現像温度や現像液の希釈による特性の変化、定着液による特性の相違や、ラピッド・セレニウムトーナーを使用した場合の濃度変化や色調等についても特性曲線や分光特性を用いた説明がありました。最後に、引き伸ばし機の光学的な調整や光源等について触れられ、「プリント雑感」という、やや漠然とした講演タイトルから想像した内容からは、良い意味で裏切られるご講演でした。
ご講演が終了してからは、内藤先生ご自身が制作された黒白印画紙プリントによる作品や、各種のプリントサンプルを身近に閲覧させて頂き、講演者を囲んでフリーに質疑応答が行われました。
最後に、本学会の高橋則英副会長に閉会のご挨拶をして頂きました。今回の研究会は、写真プリントの研究の奥深さを改めて感じることができる良い機会となりました。
(文:研究会担当・副会長 吉田 成 写真:理事 上田 耕一郎)
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関西支部・第1回シンポジウム報告
去る平成29年9月2日(土)午後5時より、京都造形芸術大学大阪サテライトキャンパスにて、日本写真芸術学会関西支部による第1回シンポジウム「写真のアーカイブスについて」を開催しました。
当日は、会員と一般聴講者合わせて30名ほどの参加がありました。永坂嘉光理事の挨拶に始まり、3名の講師によるご講演の後、吉川直哉理事による司会進行でパネルディスカッションが行われ、約2時間半の会となりました。
最初に、本学会会員で大阪新美術館建設準備室 研究主幹の菅谷富夫氏にご登壇いただき、「美術館におけるコレクションとアーカイブ」についてお話しいただきました。まずは、建設計画が進んでいる大阪新美術館の概要についての解説に始まり、大阪市が所蔵するコレクションやアーカイブを実際に見ながら、“コレクション”と“アーカイブ”との住み分け方についてお話しいただきました。
続いて、高知県立美術館 石元泰博フォトセンター 学芸員の茂木恵美子氏にご登壇いただき、「石元泰博フォトセンター開設の経緯と活動」と題してお話しいただきました。
高知県立美術館では写真家 石元泰博氏の作品(プリント)を約35000点収蔵しており、そのコレクションはプリントだけにとどまらず、15万枚にのぼるネガや関連書籍、そして、石元氏が愛用していた機材にまで及びます。これらのコレクションを包括的に所蔵するに至った経緯についてご解説いただき、多くの資料をご紹介いただきながら、それらの展示方法や活用のあり方について語っていただきました。
三人目の登壇者として、京都造形芸術大学教授で文化財保存修理技術者の大林賢太郎氏に「写真アーカイブスの実務」と題して、「保存」と「保全」の違いや、具体的な写真の保存や修理の考え方、プロセスについてお話しいただきました。
後半は、「アーカイブスの現状と課題」と題し、3名の講演者に再びご登壇いただき、吉川理事の司会進行によるパネルディスカッションを行ないました。会場の皆さんからも、美術館における収蔵品の保存方法や発表のタイミングなどについて具体的な質問が飛び交い、活発な議論が行われました。
最後は、村中修理事より閉会の挨拶があり、終演となりました。関西支部で第一回目となる本シンポジウムは、美術作品としての写真のポジションや保存、活用のあり方を、改めて捉え直す得難い機会になりました。
(文:関西支部 理事 中山 博喜 写真:河田 憲政)
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細江 英公 先生「旭日重光章」受章
11月3日付で2017年秋の叙勲受章者が発表され、東京工芸大学名誉教授で本学会元副会長の写真家・細江英公先生(84)が「旭日重光章」を受章しました。細江先生は現在は本学会の評議員でもあります。
「旭日重光章」は「旭日章」のうち「旭日大綬章」に次ぐ勲等の章です。細江先生は2003年に英国王立写真協会特別勲章を受章。2010年には文化功労者に選ばれました。
細江先生のますますのご活躍を心からご祈念申し上げます。
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年次大会報告
平成29年度日本写真芸術学会年次大会報告
平成29年度日本写真芸術学会年次大会が、6月3日(土)に東京工芸大学芸術情報館で開催されました。午後1時より通常総会、午後2時より研究発表会、午後6時より懇親会が開催されました。
通常総会は内藤会長が議長をつとめ、内藤議長より上田耕一郎理事が書記に指名されました。報告事項ではまず田中仁理事より本年度の役員改選選挙の結果として理事12名、評議員4名、監事1名が選出されたことが報告されました。その後は議事へと移り、議案は全て承認され、総会は滞りなく終了しました。
研究発表は秋元貴美子理事、上田耕一郎理事、佐藤英裕理事を座長にそれぞれ論文口述1件、調査口述1件の計6件が行われました。発表の題目、所属、発表者、及び概要は以下のとおりです。
1.論文口述「写真通信教育の現状と今後」
東京工芸大学芸術学部写真学科 田中 仁
写真教育に関わる通信教育の歴史と現状を紹介されました。さらに写真通信教育は現在、大阪芸術大学と京都造形芸術大学の2校のみが行っているが、その学習方法や特色ある授業形態、受講者の特徴、両校の特色や差異などを詳細に報告され、最後に今後の展望まで発表されました。
2.調査口述「諸外国の写真の教育事情─アメリカ合衆国編─」
日本大学芸術学部写真学科 鈴木 孝史
アメリカ合衆国の州立あるいは私立の総合大学および単科大学22校の写真関連講座(実習、理論)、美術館が併設されているか、寄付金に関わるシステム、写真作品収集、所蔵についてなどの調査報告をとおし、日本との差異を浮き彫りにした発表をされました。
3.論文口述「レフ・マノヴィッチのニューメディア論とその影響─
現代写真文化への応用可能性─」
東京工芸大学大学院芸術学研究科 石橋 賢明
デジタル時代における写真論を考察するには従来どおりにはいかない。それゆえコンピュータが人間文化に与えた影響を語るメディア理論家・アーチストであるマノヴィッチのニューメディア論を考察し、マノヴィッチ理論の要点、及びその理論がメディア論と写真論に与えた影響、重要性について発表されました。
4.調査口述「山縣有朋の笑顔写真発見」
ゆうもあくらぶ 石黒 敬章
山縣有朋5代目の子孫、山縣由紀子氏所蔵の写真を調査した結果、山縣が晩年に笑顔で写った一枚を発見した報告であった。当時は公の写真では笑顔を見せないのが通例であったなど、笑顔の写真にまつわる歴史的報告も含め、山縣の笑顔写真が撮られた経緯などの調査報告を発表されました。
5.論文口述「戦後における日本ファッション写真の歴史─1946〜56年を中心に─」
日本大学大学院芸術学研究科 細川 俊太郎
発表者が考えるファッション写真の定義を最初に明確にし、それを踏まえ雑誌『装苑』で活躍した写真家たちの作品を中心に1946年〜1959年のファッション写真を欧米の同時代の作品と比較考察し、日本のファッション写真の特徴を述べた。更にそこから見えてくる文化、社会性にまで言及した発表をされました。
6.調査口述「シリーズ展「夜明け前知られざる日本写真開拓史」を終えて」
東京都写真美術館 三井 圭司
本年3月〜5月の東京都写真美術館における「夜明け前知られざる日本写真開拓史総集編」は、平成19年から2年に1回、合計4回の写真展の総括として開催されたものである。これら写真展開催のために行われた調査や新しい展示方法も含め、古写真研究の成果と現状、そして今後の課題について発表されました。
年次大会終了後、会場を東京工芸大学食堂プレイスへ移し、懇親会を行いました。上田耕一郎理事の司会進行により和やかな雰囲気の中で参加者は情報交換などをしながら楽しく有意義な時間を過ごすことができました。
今年度は、残念ながら日本写真芸術学会賞の授与者がおりませんでした。しかし研究発表は、教育に関するものが2件、表現に関するものが1件、歴史に関するものが2件、そして発見の報告が1件と内容に富み、多様な分野での発表が充実していました。また本年度は、昨年の写真プリントセミナーに引き続き写真プリント研究会、関西支部では写真研究会に加え第1回シンポジウムも予定されています。年次大会の研究発表同様、研究会等への参加、学会誌への投稿がさらに増え、学会が活性化し充実したものとなり、次回は多くの賞を授与できることを願っております。
(文:実行委員長・西垣仁美、写真:細川大蔵)
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関西支部第二回写真研究会報告
日本写真芸術学会関西支部 第二回研究会 開催報告
去る平成29年3月4日(土)午後6時より、ビジュアルアーツ専門学校大阪校にて、2016年度に正式発足した日本写真芸術学会関西支部による第二回研究会を開催しました。テーマを「テグフォトビエンナーレ2016報告:芸術監督の経験を通して写真祭を考える」と題し、今回のテグフォトビエンナーレにおいて芸術監督を務められた、本学会理事の吉川直哉先生にご講演いただきました。
当日は、会員と一般聴講合わせて25名ほどのご参加がありました。司会進行は、中山博喜会員(京都造形芸術大学)が務め、講演と質疑応答を含めて約2時間半の会となりました。
前半の講演では、テグフォトビエンナーレの歴史から始まり、実際に芸術監督を任命されるまでの経緯についてお話しいただきました。1980年代に初めて韓国を訪問した時から着実に築き上げてきた縁が今回の任命につながったというお話の中では、芸術監督を引き受けた最も大きな理由に「チャレンジ精神」を挙げられ、国境を越えて積極的に展覧会に参加してきた実体験についてもお話しいただくなど、モノづくりの根幹に触れる場面もありました。
次に、芸術監督という役割について、運営事務局の組織構成を解説していただきながら、キュレーターや出品作家の選出方法、そして予算の割り振りにいたる仕事の詳細についてお話しいただきました。その中で、本ビエンナーレのテーマとなった“We are from somewhere, but where are we going ?/我々はどこから来て、どこへ行くのか?”を決定する際、運営事務局(社団法人 _テグフォトビエンナーレ)から「問いかける形のテーマはこれまでにない」との反発があったと言い、「これまでにないからこそ、やる意味がある」という意志のもとで、事務局と幾度となく意見を交わし合うことによって、ようやく決定に至ったというエピソードをご紹介いただきました。
更に、展示作品を紹介する場面では、それぞれの作品の取り扱い方法やテーマ内容についての数々の興味深い苦労話が披露され、多種多様な意見を短い準備期間の中で和協させるに至ったドキュメンタリーさながらの報告に、会場から感嘆の声が上がりました。
後半は、会員を始めとする会場の皆さんと吉川先生との間で、海外で作品を発表することについての意見交換がなされ、その後の質疑応答でも活発な議論が行われました。
1月に芸術監督の声が掛かってから9月の開催までの含蓄に富むエピソードや各展示作品についての考察など、今回の研究報告は、アジア地域における写真文化の方向性を捉え直す得難い機会になりました。
(文:理事・関西支部・中山博喜)
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